「職場からの帰宅途中、 寄り道して事故にあった場合は通勤災害になりますか?」
といった通勤災害についての質問を多くいただきますので、アーチスが解説します。
今回は理解を深めるために事例をひとつ。
-事例-
女性従業員が職場からの帰宅途中で美容院に立ち寄り、2時間ほどサービスを受けた後、自宅へ向かう途中で事故に遭いました。
この場合、労災保険の通勤災害として認められるのでしょうか?
これについて考えていきましょう。
この記事の目次
先に結論を申し上げてしまうと、上記の事例は通勤災害として認められます。
ただし、例外もありますので注意が必要です。
ここでは順を追って「通勤災害とは何を指すのか?」というところから考えてみます。
まず通勤災害について確認しましょう。
通勤災害とは、「労働者が通勤により被った負傷、 疾病、障害又は死亡」のことをいいます。
そう、ここで重要なキーワードは「通勤」です。
従業員の移動が「通勤」と認められるためには、その移動が「業務に関連して行われていること」が必須となります。
つまり、業務に就くために(出勤)、または業務が終了したために(退勤)、行われる移動であることが必要です。当然ながら前提として、被災当日に就業することとなっていた、または現実に就業していなければいけません。
また、労働者災害補償保険法(以下、労災保険)において「通勤」とは、次のような2つの“移動”を、合理的な経路及び方法によって行うことをいいます。業務の性質(※)を有するものは含まれません。
①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所から他の就業の場所への移動
(※業務の性質を有するものとは、業務時間中にお客様へ向かう、物を運ぶ、人を運ぶ、銀行へ記帳に行くなどの移動のことです。この場合での負傷、疾病、障害又は死亡は業務災害となります。)
ここで①と②を深堀してみましょう。いくつか事例を挙げます。
①の事例:
住居 → 就業の場所 → 住居
②の事例:
住居 → 最初の就業場所 → 兼業の就業場所 → 住居
その他の事例:
住居 → 就業の場所 → お客様 → 就業の場所 → 住居
住居 → 就業の場所 → お客様 → 住居
住居 → お客様 → 住居
住居 → お客様 → 就業の場所 → 住居
赴任先住居 → 就業の場所 → 赴任先住居 → 帰省先住居 ※1
帰省先住居 → 赴任先住居 → 就業の場所 → 赴任先住居 ※1
青→ は 業務の性質を含まないので、「通勤」です(このときに災害があると、通勤災害)
赤→ は 業務の性質を含むので、「業務」です(このときに災害があると、業務災害)
※1 単身赴任者の通勤は条件が整った場合に、住居間の移動が通勤となることがあります。反復継続性や家族と別居しているかなどの条件となります。
続いて、通勤の起点と終点について確認しましょう。
起点(通勤がどこから始まるか)=「一般の通行の用に供されている場所から」となります。
やや難しい表現ですが、簡単に言うと、
マンションやアパート等の集合… 住宅の場合は自室の玄関ドアを出たところ
一戸建ての場合… 関を出て、庭がある場合はその庭の門や門扉を出たところから
となります。
ですので、例としてはこのようになります。
アパートの階段で転倒した → 通勤災害 〇
一戸建ての2階の自分の部屋に向かう際に転倒した → 通勤災害 ×
一戸建ての庭で転倒した → 通勤災害 ×
終点(通勤がどこで終わるのか)=「事業主の支配管理権の及んでいる事業場まで」となります。
こちらは、事業場の門までとなります。
事業場の門の前で転倒 → 通勤災害 〇
事業場の門を入り、自分の所属部署までの廊下、階段等での転倒 → 通勤災害 × (しかし業務災害 〇)
もう一つ重要なこととして、通勤災害とみなされなくなってしまう「逸脱」「中断」についても解説します。
逸脱とは:
通勤の途中で就業や通勤と関係ない目的で合理的な経路をそれることをいいます。
中断とは:
通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます。
通勤の途中で逸脱又は中断があるとその後は元の経路に戻っても原則として通勤とはなりません。
しかし、これについては法律で例外が設けられており、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び通勤となります。
つまり、日常生活上最低限度の行為である場合には、「その逸脱・中断を除き、その後の通勤または帰宅途中は労災保険法の通勤に当てはまる」ということです。
では、この日常生活上最低限度の行為とは、どのようなものなのかを以下に記載します。
①帰宅途中に惣菜等を購入すること
②独身者が食堂に食事に立ち寄ること
③クリーニング店に立ち寄ること
④理髪店または美容院に立ち寄ること
⑤職業訓練を受けるために公共の職業開発施設や大学・高校等に行く場合
⑥ 選挙権の行使や直接請求権の行使の場合
⑦ 病院や治療院(整体・針灸等を含む)に行く場合
以上のことから、冒頭のご相談「美容院に立ち寄った後、帰宅する途中で災害にあったとき」は通勤災害として認められることになります。
尚、通勤災害になるのは「合理的な経路に復した後の災害」ですので、もし美容院の中で転倒し、ケガをしても労災保険には適応されませんのでご注意ください。
当社のお客様であった事例では、中途入社したばかりの社員さんが、会社の帰りに前職の会社へ給料を取りに行った際に起きた災害が通勤災害となるか否かと言ったケースです。
この場合、上記の①~⑦に該当しないということになり、通勤災害になりませんでした。通勤災害にならなければ、健康保険の療養や傷病手当金を受給することになります。
いかがでしたでしょうか?
身近なことでありながら、意外と知られていないことが多い通勤労災の問題。なかなかご自身ではジャッジできないケースが散見されます。誤った理解で重大なミスにならないようご注意ください。
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