この記事のポイント:
・住宅手当は導入しやすいが不公平感が発生しやすい
・借上げ社宅は採用に強いが運用ルール整備が重要
・制度設計より運用ルールでトラブルになるケースが多い
・導入前に就業規則や社宅規程を整備することが重要
近年は採用競争の激化により、「住宅手当を作りたい」「社宅制度を導入したい」というご相談が増えています。
特に地方企業や人材不足が深刻な業界では、給与だけで他社と差別化することが難しくなっており、住宅支援制度を採用施策の一つとして検討する企業も少なくありません。
一方で、制度導入を検討する経営者からは、
・住宅手当と社宅はどちらが良いのか
・対象者はどこまで広げるべきか
・不公平感は出ないか
・退職時のトラブルは大丈夫か
といったご相談も多く寄せられます。
実際に制度設計を誤ると、採用には役立ったものの、
後から社員間の不満や退去トラブル、税務上の問題に発展するケースもあります。
今回は、採用力向上につながる住宅支援制度の考え方と、
導入前に押さえておきたい実務上のポイントについて解説します。
この記事の目次
企業が従業員の住居を支援する方法には、現金で支給する「住宅手当」と、会社が物件を賃借して従業員に貸し与える「借上げ社宅」があります。
それぞれの特性を理解し、自社の採用方針や管理体制に合わせて選択することが重要です。
【メリット】
・現金支給のため、会社側の物件探しや契約手続き、管理の手間がかからない
・制度導入が比較的容易
・対象者を広く設定しやすい
【デメリット】
・原則として給与課税の対象となるため、額面ほど手取りが増えない
・居住状況の確認が必要になる場合がある
・支給条件が曖昧だと不公平感やトラブルにつながりやすい
実際にご相談の中でも、「賃貸居住者だけ支給しているが、実家暮らしの社員から不満が出た」「支給対象の判断が担当者ごとに違ってしまった」といったケースがあります。
【メリット】
・税務上の要件を満たせば、会社負担分を給与課税の対象外とできる
・遠方採用や新卒採用において強いアピール材料になる
・従業員の住居確保を会社が支援できる
【デメリット】
・契約管理や家賃支払いなど事務負担が大きい
・退去時トラブルへの対応が必要になる
・社宅規程の整備が不可欠
特に地方から人材を採用したい企業では、借上げ社宅が採用成功の決め手になることも少なくありません。一方で、退職時の対応まで考えずに導入してしまい、後から問題になるケースもあります。
住宅制度についてご相談をいただく企業の多くは、「採用のために何か福利厚生を増やしたい」というところから検討を始めます。
しかし実際には、
・住宅手当を導入した結果、実家暮らしの社員との不公平感が問題になった
・社宅制度を導入したものの、退職後の退去対応で苦労した
・住宅手当の支給条件が曖昧で、対象範囲を巡ってトラブルになった
・住宅支援制度を導入したものの、採用面で期待したほど効果が出なかった
といったケースも少なくありません。
制度そのものよりも、「何のために導入するのか」「誰を対象にするのか」を最初に整理することが重要です。
採用効果を高めるためには、全社員に一律で支給するよりも、採用したい人材に重点的に支援を行う方が効果的です。
例えば、
・入社3年以内は月3万円補助
・若手社員を重点支援
・遠方採用者は借上げ社宅を優先
といった制度設計は、採用メッセージとしても分かりやすくなります。
求職者にとっては、毎月の家賃負担だけでなく、敷金・礼金や引越し費用も大きな負担です。
住宅補助と合わせて入社時の初期費用支援を行うことで、応募へのハードルを下げることができます。
全国一律の補助額では、都市部では不足し、地方では過剰になることがあります。
勤務地ごとの家賃相場に応じて補助額や上限額を調整することで、採用力と公平性の両立が図りやすくなります。
制度が複雑すぎると求職者に伝わりません。
・借上げ社宅あり
・県外応募者は引越し費用補助あり
・入社3年間は住宅補助支給
など、一目で理解できる内容に整理することも重要です。
私たちがご相談を受ける中でも多いのが、「制度そのもの」よりも「運用」に関するトラブルです。
制度を導入する段階では問題がなくても、実際に運用を始めると想定していなかったケースが次々に発生します。
・結婚した場合はどうするのか
・単身赴任は対象になるのか
・同居人が増えた場合はどう扱うのか
・持ち家を取得した場合はどうするのか
・異動や転勤が発生した場合はどうするのか
こうしたケースに対するルールが曖昧なまま運用を始めると、その都度判断が必要になり、結果として社員ごとに対応が変わってしまいます。
住宅制度は福利厚生であると同時に、「お金」が関わる制度です。そのため、一度不公平感が生まれると想像以上に不満が大きくなりやすい傾向があります。
制度導入時には、「支給すること」だけでなく、「どのように運用するか」まで見据えた設計が重要です。
住宅手当の運用で最も多いのが、「なぜあの人は対象で、自分は対象外なのか」という不公平感に関する問題です。
例えば、
・賃貸住宅に住む社員のみ支給する
・世帯主のみ支給する
・若手社員のみ支給する
といった制度自体は珍しくありません。
しかし、制度の目的が明確でないまま運用すると、
「実家暮らしだから対象外と言われた」
「持ち家だから支給されない」
「同じ仕事をしているのに待遇が違う」
といった不満につながることがあります。
また、実務上は、
・実際には同居しているが単身居住として申請する
・転居したにもかかわらず届出を行わない
・支給要件を満たさなくなった後も受給を続ける
といったケースが発生することもあります。
そのため、制度導入時には、
・なぜ支給するのか
・誰を対象にするのか
・どのような場合に支給停止となるのか
を明文化しておくことが重要です。
また、住所変更や世帯状況の変更時の届出義務、定期的な現況確認などもあわせてルール化しておくことで、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
借上げ社宅を導入する場合、採用面でのメリットは大きい一方で、退職時の対応についても事前に考えておく必要があります。
実際にご相談いただく内容として多いのが、
・退職後も退去してもらえない
・退去日を巡って揉める
・原状回復費用の負担で争いになる
といったケースです。
特に借上げ社宅の場合、会社が賃貸借契約の当事者となるため、社員とのトラブルがそのまま会社の負担につながります。
「退職したら出てもらえばよい」と考えがちですが、実際にはそう簡単ではありません。
そのため、
・退去事由
・退去期限
・鍵の返却方法
・原状回復費用の負担区分
などを社宅規程や誓約書で明確に定めておくことが重要です。
また、退職時だけでなく、異動や転勤による退去が発生するケースもあるため、導入前の段階から退去ルールを整理しておくことをおすすめします。
借上げ社宅を導入する際に見落とされやすいのが税務上の取り扱いです。
実務上、「会社が家賃を払っているから非課税」と考えているケースがありますが、必ずしもそうではありません。
税務上は一定の要件を満たしていなければ、会社負担分が給与として課税される可能性があります。
せっかく福利厚生制度として導入したにもかかわらず、
・給与課税が発生した
・想定していた節税効果が得られなかった
・給与計算の修正が必要になった
という事態になれば、本来得られるはずだったメリットが大きく損なわれてしまいます。
特に借上げ社宅は、労務、税務、不動産契約の要素が複雑に絡み合う制度です。
そのため、「他社がやっているから同じように導入する」のではなく、自社の制度設計が税務上の要件を満たしているかを事前に確認することが重要です。
制度導入後に見直すよりも、導入前の段階で整理しておく方が結果的に手間もコストも抑えられます。
社宅制度や住宅手当は、採用競争が激しい時代において有効な施策の一つです。
ただし、「他社もやっているから」という理由だけで導入すると、思ったほど採用効果が出なかったり、後から運用トラブルに悩まされたりすることがあります。
重要なのは、自社が採用したい人材にとって本当に魅力になる制度かどうかを考え、その目的に合わせて制度を設計することです。
また、制度導入後にトラブルが発生しないよう、就業規則や社宅規程の整備も欠かせません。
アーチスでは、住宅手当制度や借上げ社宅制度の設計支援、就業規則・社宅規程の整備支援も行っています。
「採用力を高めたい」
「制度を作りたいが何から始めればよいか分からない」
という場合は、お気軽にご相談ください。
プロフィール

神奈川県平塚市
Crux社会保険労務士法人・行政書士法人
アーチス
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