現金を持ち歩くことなく支払いをすることができる「キャッシュレス化」が加速する中、厚生労働省が2023年4月より、賃金移動業者の口座への賃金支払いこと「賃金のデジタル払い」を解禁しました。
今回は、賃金のデジタル払いとは具体的にどのような制度なのか、会社としてどのように対応すればよいのかについて、順を追って解説をしていきましょう。
この記事の目次
賃金のデジタル払いとは、従業員の給料をキャッシュレスのデジタル払いで行う方式のことです。
通常、従業員の賃金は「通貨」で払うことが原則とされています。
つまり、昔のドラマや小説などでよく見られたような、給与支払い日に社長が封筒に入れた現金を手渡しで従業員に渡す、という光景が本来の給与払いのあり方になります。
現在は、従業員の銀行口座や証券総合口座などに給与額が振り込まれるケースが一般的にみられるようになりましたが、実はこれはあくまでも「例外として認められている」給与支払い方法なんです。
そして、今回の法改正により、給与のデジタル払いが認められる運びとなりました。
一口に言うと、会社が銀行口座等を通さずにスマホの決済アプリや電子マネーなど、いわゆる「〇〇ペイ」と呼ばれるシステムを用いて振り込むことが可能になるということです。
デジタル払いが認められることで、従業員は振り込まれたばかりの給料で即時にキャッシュレス決済で支払いをすることができるようになります。
賃金のデジタル払いが実現した背景としては、世界的なキャッシュレス化の動きが最たる理由として挙げられます。
キャッシュレス支払いには、
・プリペイド方式の電子マネー
・リアルタイムぺイ方式のデビットカードやモバイルウォレット
・ポストペイ方式のクレジットカード
などが挙げられます。
経済産業省が公表する「キャッシュレス・ビジョン」によれば、2015年度時点での日本のキャッシュレス比率は18.4%となり、他国と比べると低比率であることが公表されています。
ちなみに、最もキャッシュレス決済が頻繁に行われているのは韓国で、89.1%という高い水準を誇ります。
その後、中国、カナダ、イギリス等と続きますが、ほぼ半数の水準という結果となっています。
今後もキャッシュレス化が加速することが予想されることで、日本でもキャッシュレス化を推進する動きが活発になっています。今回の「賃金のデジタル払い」が認められるようになったことも推進化対策の一つであるといえるでしょう。
賃金のデジタル払いを導入した場合のメリットには、先ほど申し上げたように従業員が振り込まれたばかりの給料で即時にキャッシュレス決済で支払いをすることができるようになる他、もともと銀行口座を持たない従業員(日雇い従業員や外国人労働者、非正規雇用者など)に対して容易に給与を支払うことなどが挙げられます。
また、資金移動業者(※1)へ送金する際の手数料は比較的安価に抑えられているケースが多くみられることから、銀行口座へ送金する場合にかかる手数料と比べコストカットを図ることができるケースもあります。
※1…資金移動業者について補足
賃金のデジタル払いは、厚生労働大臣から「指定資金移動業者」の指定を受けた「第2種資金移動業」として登録されている資金移動業者を介して行う必要があります。
この指定資金移動業者は、1件当たりのトータル送金額が100万円以下の案件を扱うことが認められている業者となるため、賃金のデジタル払いの場合もアカウントの残高上限は100万円になります。
なお、資金移動業者に預けた残高については補償の対象であることから、万が一利用している資金移動業者が倒産した場合でも、会社の資金については保護される仕組みが取られることになります。
まず覚えておかなければならないのが、賃金のデジタル払いは会社が強制して行うものではないということです。
あくまでも、従業員側が賃金デジタル払いを希望した場合のみ対応すべきものとされています。
従業員の同意を得ない状況で賃金のデジタル払いを行った場合は、法律違反として問われる可能性があるため注意しましょう。
実際に賃金のデジタル払いを導入する場合は、まずは就業規則や賃金規程の中に、デジタル払いに関する要項を盛り込むことから開始しましょう。
その際には、賃金デジタル払いの対象となる従業員や給与の内容、取引対象となる資金移動業者などを記載し、労使間で協定(労使協定)を交わすことも必要です。
実際のデジタル払いの内容や仕組みを従業員へ説明し、しっかりと理解してもらった上で従業員一人ひとりの同意を得ることが求められます。
この同意については口頭ではなく、書面やメールなどで残しておく必要がある点にも注意しましょう。
キャッシュレス化が浸透するにつれ、従業員の中にもデジタル払いを希望する者が増えることが予想されます。
特に経営者世代の中にはデジタル払いに疎いケースが多いかもしれませんが、法改正のタイミングに合わせて制度導入の検討をしてみてはいかがでしょうか。
先述のように、就業規則や賃金規程にデジタル払いに関する要項を新たに含める必要がありますが、専門的な知識がないとトラブルの元となります。
そういった場合は労務の専門家である社労士事務所へのご相談が賢明です。
私たちアーチスは最新の情報や法改正を常にアップデートしており、関東はもとより全国のご相談にも迅速なレスポンスで対応いたします。
賃金のデジタル払いに関してさらに詳しい内容を詳しく知りたい場合は、ぜひ当社までご相談ください。
その際、業務手続報酬が発生した場合の相談は無料とさせていただいております。
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