新型コロナウイルス感染症(コロナ2019)感染症法上の位置づけが「5類」に移行することが決まり、社会的に収束の兆しが見えてきたものの、社員が療養のため会社を休むケースは今後もしばらく続くことが予想されます。
このような状況において、社員の生活を守るため「傷病手当金」という制度があるのはご存知でしょうか?
今回の記事では、前編・後編の2部構成で、
・傷病手当金とはどのような内容か
・どのようなケースで取得することができるのか
・コロナに罹患した際の支給について
という流れで順を追って解説をします。
前編である今回は、傷病手当金の基礎内容について見直してみることにしましょう。
この記事の目次
傷病手当金は、健康保険に加入している社員が病気にかかった、または怪我をしてしまったことで働くことができず会社を休んだ場合に、社員自身やその家族が生活するための保障金として受け取ることができる給付金のことです。
傷病手当金が支給されるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
順に見ていきましょう。
ここで「業務外の理由」とわざわざ明記されている理由は、仕事中や通勤時に社員が負傷したり、仕事を起因とした疾病にかかったりした場合は「労災保険」から生活保障としての給付を受けることができるためです。
傷病手当金は、あくまでも、仕事を離れたケースでの病気や怪我による療養期間に受け取ることができることを覚えておきましょう。
なお、支給対象となる期間には、病気や怪我が癒え、自宅療養中のために出社できない期間も含まれます。
ただし、美容整形などのために会社を休むようなケースは、病気療養とは認められないため支給対象からは除外されますのでご注意ください。
傷病手当金は、社員が出社できない状況に置かれていることを前提とした給付制度であることから、当然ながら「社員が就労できない」ことが要件として定められています。
なお、この「就労できない状態」の中には、病院が遠くて通院に時間がかかるため出社ができない場合や、本人が就労可能だと判断するものの医師が止めているケースなども含まれます。
傷病手当金は、病気や怪我を直すために連続して3日間仕事を休むことが要件として定められており、手当金の支給は前述の3日間を過ぎた4日目以降の就労できなかった日が対象になります。
「通算して3日」ではない点に注意しましょう。
なお、出社中に仕事とは別の理由で病気や怪我を負った場合は、その当日が待機期間の1日目としてカウントされます。
その他覚えておくべきポイントとしては、待期期間には、土日や祝日など、もともと会社が休みである日も含まれる点です。
また、待機期間中に給料が発生していたり、有給休暇として消化していたとしても、会社を休んでさえいればその期間も待期期間としてカウントされる点も覚えておきましょう。
傷病手当金は、前述の通り仕事ができない社員や家族の生活保障のために受け取ることができる制度です。
したがって、就労していないものの、給料が支払われている日については傷病手当金が支給されません。
ただし、支払われた給料額が傷病手当金の支給額よりも低額の場合は、差額分が支給されます。
つまり、社員は生活保障のための最低額として傷病手当金の金額までは確保できるということです。
一日あたりで支給される傷病手当金は、「標準報酬日額の3分の2」の金額になります。
標準報酬額(標準報酬月額)とは:
社員が受け取っている1ヶ月の給料額を一定額ごとに分類された等級表で割り振り、該当する金額のことです。この金額をもとに、厚生年金保険料や健康保険料の金額を計算することになります。標準報酬日額とは、この標準報酬月額を30で割り、一日当りの金額にしたものです。
つまり、社員の一日あたりのおよその給料のうち、3分の2となる金額が傷病手当金として支給されるということになります。
傷病手当金は、他の公的制度による支給が同時に行われている場合は、一定額が停止されたり減額されることがあります。
ここでは、このようなケースについて順に見ていきましょう。
①出産手当金を受け取っている場合
出産前後に産前産後休業を取り、出産手当金を受け取っている社員については、支給されている出産手当金額分の傷病手当金額がカットされます。
ただし、傷病手当金の額が出産手当金の額よりも多いケースについては、差額分が支給される点に注意が必要です。
②障害厚生年金や障害手当金を受け取っている場合
傷病手当金の受け取るケースと同様の理由において、障害厚生年金の受給が決定した場合は、傷病手当金の支給は行われません。
ただし、障害厚生年金額(障害基礎年金額も含む)を360で割った金額が傷病手当金額よりも少ない場合は、差額分を受け取ることができます。
また、障害手当金を受け取ることができる場合についても、障害手当金の支給トータル額分までは傷病手当金の支給が開始されません。
③労災保険による休業補償給付を受け取っている場合
労災保険制度の休業補償給付を受け取っている場合は、傷病手当金の支給は行われません。
ただし、休業補償給付の一日あたりの金額が傷病手当金額よりも少ない場合は、差額分を受け取ることができます。
傷病手当金とはどのような内容であるのか、その元となる基礎的内容がご理解いただけましたでしょうか?
できるだけ分かりやすくお伝えしたつもりですが、金額の詳細や支給開始日、他の制度との併給調整など、専門性が高く複雑に思えるケースがあるかもしれません。
さらに詳しい内容や実際のケースに応じて詳しく知りたい場合は、ぜひ当社までご相談ください。
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神奈川県平塚市
社会保険労務士法人・行政書士法人
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