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    同業他社への転職は制限できる?【競業避止義務】を解説

    労働契約

    質問:
    有能な技術者である従業員が退職願を出しました。
    もしその人が同業他社に転職した場合、当社にとって深刻な影響が出る可能性があります。
    このようなケースで、転職を制限する方法はあるのでしょうか?
     
    回答:
    従業員が退職後に同業他社で働くことを制限する「競業避止義務」という契約があります。
    この取り決めは、企業の知的財産や競争優位性を守るために非常に重要です。
    ただし、こうした義務を設けるには、労働者の「職業選択の自由」を不当に制約しないよう注意する必要があります。
    以下に法律面や実務対応について、労務の専門家が分かりやすくお伝えします。
     
     

    競業避止義務とは?

    競業避止義務とは、退職後に元従業員が競合企業で働くのを防ぐための取り決めです。
    多くの場合、雇用契約書や退職時の誓約書で明文化されます。
    この契約により、企業は自社の営業秘密や競争上の優位性を保護できます。
     
     

    競業避止義務を有効にするためのポイント

    ①使用者の正当な利益があること

    保護されるべき使用者の正当な利益には、いわゆる「営業上の秘密」が含まれます。
    たとえば、顧客や取引先との関係、製品製造における材料や製法などの技術的な秘密が該当します。
    そのため、労働者が在職中に習得した一般的な知識や技能を使って営業活動を行うことは許されていますが、元の使用者の営業上の秘密を利用することは禁じられます。
    この「営業上の秘密」とは、適切に管理され、公開されていない技術的または経営上の情報を指します。
     

    ②労働者の地位

    労働者が、使用者の営業上の秘密にアクセスできる立場であることが重要です。
    つまり、元従業員全員が一律に競業避止義務の対象になるわけではありません。
    そうではない立場の従業員、つまり営業上の秘密に関与していなかった人にまで競業避止義務を課すと、その人の職業選択の自由を不当に制約することになります。
    そのため、裁判所などでも無効と判断される可能性が高まります。
    従って、競業避止義務を設ける際は、どの従業員がその対象になるのかを慎重に見極めることが大切です。
     

    ③制限の範囲を合理的に設定する

    (ア)時間の範囲
    競業避止義務の期間として一般的に適切とされるのは、6か月から1年程度です。
    それ以上の長期間を設定する場合には、特別な事情や合理的な理由を説明できることが求められます。
    つまり、設定した期間が事業主の正当な利益を守るために必要なものであり、過度に長期的な制限でないことを証明する必要があります。
     
    (イ)地域の範囲
    競業避止義務が適用される地域も、無制限に広げることはできません。
    具体的には、事業者が実際に営業活動を行っている地域、または事業利益が脅かされる可能性がある地域に限定することが重要です。
    合理的な範囲の例: 事業を実際に展開している地域に限定すること
    不合理な例: 実際には事業活動が行われていない地域にまで制限を広げること
     
    (ウ)業務内容の範囲
    競業避止義務の対象となる業務内容も、労働者が以前に従事していた職種や業務内容に直接関係するものに限るべきです。
    そうすることで、制限の範囲が適正であると判断される可能性が高くなります。
     
    合理的な範囲の例: 労働者が在職中に得た専門知識や顧客情報を活用できる特定の業務に限定すること。
    不合理な例: 同業他社における全ての業務や、従事したことのない職務まで幅広く制限すること。
     
    このように、時間、地域、業務内容それぞれについて明確な基準を設け、合理的な範囲内で制限を課すことが大切です。
    そうすることで、労働者の職業選択の自由と事業者の正当な利益のバランスを保つことができます。
     

    ④代償措置を提供する

    競業避止義務を課す際には、その義務によって労働者が職業選択の自由を一定の範囲で制限される代償として、労働者に対して合理的な補償を支払うことが必要となります。
    補償の内容や金額は、競業避止義務によって生じる不利益の度合いや、労働者が将来受ける可能性のある不便に見合うものとなります。
     
    実際に、過去の裁判例では、補償が支払われていない場合に競業避止義務が無効と判断されたケースが少なくありません。
    例えば、企業側が競業避止義務を一方的に課し、労働者がそれによって将来的な就業の選択肢を大幅に制限されたにもかかわらず、補償が何も支払われていない場合、その義務の有効性が認められなかった事例があります。
    このような事例が示すように、競業避止義務を導入する際には労働者の利益にも十分配慮し、公平で適切な補償を提供することが必要不可欠なのです。

    法的基盤

    日本の法律では、競業避止義務を明確に規定する法律は存在しませんが、以下の法的根拠が関係します。
     

    憲法第22条(職業選択の自由)

    労働者には職業選択の自由が保障されています。これは労働者に仕事を自由に選ぶ権利を与えるものです。
    そのため、競業避止義務を課す場合も、労働者の自由を不当に制約せず、必要かつ合理的な範囲内に限定する必要があります。
     

    労働契約法第13条

    労働契約の内容が労働者の基本的権利を侵害してはならないと規定しています。これにより、競業避止義務も、正当な理由がなければ無効とされる可能性があります。契約が有効であるためには、使用者の利益と労働者の権利とのバランスが重要です。
     

    不正競争防止法

    営業秘密の漏洩を防ぐため、元従業員による機密情報の持ち出しを禁じています。
    これにより、企業は営業上の秘密を守りつつ、競業避止義務の正当性を高める法的根拠を得ています。
     
    これらの法律を考慮することで、競業避止義務は労使双方の権利を尊重しながら適切に運用する必要があります。

    実務的な対応方法

    企業が競業避止義務を導入する際は、以下のような手順を検討することがポイントです。

    1. 就業規則や雇用契約書への明記

    競業避止義務を導入する際は、就業規則や雇用契約書に具体的な内容を明記することが重要です。対象業務や範囲、期間などを詳細に記載し、労働者に理解と同意を得ることでトラブルを防ぎます。透明性を持たせることで法的にも有効となり、双方にとって安心できる契約となります。
     

    2. 代償措置の設定

    競業避止義務による職業選択の自由の制約に対して、合理的な補償を提供することが求められます。
    補償額は転職による経済的損失を考慮して設定し、契約書に具体的に明記します。
    代償措置を用意することで、義務の正当性を高め、労働者の納得を得やすくなります。
     

    3. 定期的な見直し

    競業避止義務は社会情勢や法改正に応じて定期的に見直すことが重要です。
    期間や範囲が過剰な制約とならないよう調整することで、義務の有効性を維持できます。
    契約内容を定期的に更新することで、無効リスクを下げ、労使双方が安心して契約を履行できる環境が整います。
     

    4. 営業秘密の管理

    競業避止義務を支える営業秘密は、適切に管理され、非公開であることが前提です。
    保護する情報の範囲を明確にし、アクセス可能な従業員を限定することで漏洩リスクを減らせます。
    管理体制を整えることで、競業避止義務の有効性がさらに高まります。
     

    トラブルを未然に防ぐならアーチスへ

    競業避止義務は、企業が営業上の秘密や顧客情報など、競争力を保つ上で重要な資産を守るための制度です。
    しかし、この制度を導入する際には、法的な制約を十分に理解しないと、無効と判断されるリスクがあります。
    労働者の職業選択の自由を不当に制限したり、合理的な補償を用意しない場合、競業避止義務そのものが成立しない可能性もあるのです。
    こうしたリスクを回避し、制度を安全に活用するためには、専門家のサポートが欠かせません。
    わたしたち社労士法人・行政書士法人アーチスは、労働法や不正競争防止法に精通しており、企業が正当かつ合理的な競業避止義務を設計するための頼れるパートナーとなります。
    事前に専門家に相談することで、契約内容の妥当性や補償額の適正性を確認でき、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
    企業の利益を守りつつ、法的なリスクを最小限に抑えるために、競業避止義務の導入を検討する際は、ぜひ弊社にご相談ください。



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