質問:
「退職代行サービス」から連絡が来ました。
当社の従業員の退職の申し出とのことですが、会社としてどのように対応すれば良いのでしょうか?
最近よく耳にするようになった「退職代行サービス」から、会社の従業員の退職の申し出を受けると、初めての経験で戸惑われる経営者や人事担当者の方もいらっしゃるかと思います。
このような状況に適切に対応するためには、退職代行サービスに関する基本的な知識と、会社として行うべき手続きを理解しておくことが重要です。
本記事では、退職代行サービスの概要、有効性、対応の注意点について詳しく解説していきます。
この記事の目次
「退職代行サービス」とは、従業員本人の代わりに、会社に対して退職の意思を伝達することを主な業務とするサービスです。
退職代行サービスを提供しているのは、主に以下の3種類に分けられます。
弁護士
唯一、法律上の「代理人」として、会社との交渉や法的対応(例:未払い残業代請求、損害賠償への反論など)も行うことが認められています。
労働組合
労働組合法に基づいて活動する団体で、団体交渉権を持っているため、賃金の支払い交渉や有給休暇取得の交渉も可能です。
民間業者
比較的リーズナブルな価格で利用でき、スピード感のある対応が特徴です。
なぜ、従業員がこのようなサービスを利用するのでしょうか?
それは、多くの場合、従業員が会社との間でトラブルを抱えていたり、職場の人間関係がうまくいかなかったりして、「自分自身で会社に退職の意思を直接伝えることが困難な状況」にあるためです。
このような場合に、第三者を介して円滑に退職手続きを進めるための選択肢として利用されることが多いのです。
「従業員本人から直接聞いていないのに、退職代行業者からの連絡だけで退職は有効になるのだろうか?」と疑問に思われるかもしれません。
しかし、退職代行業者からの退職の意思表示であっても、それが従業員本人の明確な意思に基づいているのであれば、原則として有効とされています。
特に、弁護士資格を持たない民間業者が行う退職代行の場合、彼らは従業員本人の「代理人」としてではなく、あくまで「使者」(伝言係のようなもの)として、本人の「退職したい」という意思を会社に伝えているだけだと考えられています。
これは、弁護士ではない人が報酬を得て行う法律事務(交渉や法的手続きなど)は、「非弁行為」として弁護士法第72条で禁止されているためです。
しかし、「本人の退職意思を会社に伝える」という行為自体は、法律行為には当たらないと判断されており、非弁行為には該当しないとされています。
裁判例でも、民間業者が従業員の退職意思を伝達しただけであれば、弁護士法違反ではないと判断された例があります。
したがって、弁護士ではない退職代行業者からの連絡であっても、伝えられた内容が従業員本人の意思通りであれば、本人の退職したいという意思は会社に有効に伝わったことになります。
従業員が会社に対して行う退職の意思表示は、労働契約を一方的に解約する行為です。
いつ退職の効果が発生するかは、雇用契約の期間の定めがあるかないかで異なります。
民法では、従業員はいつでも会社に対して退職を申し出ることができると定められています。
・退職の意思表示が会社に伝わってから、原則として2週間が経過すると、労働契約は終了します。会社の承諾は必要ありません。
・退職代行業者からの連絡があった場合も、その連絡が会社に到達した日から2週間が経過する日に退職が成立するとして取り扱われます。
もし退職代行業者から伝えられた退職希望日が2週間よりも前の日付だったとしても、法律の原則通り、連絡到達日から2週間が経過した日をもって退職として扱うことができます。
・契約期間が定められている場合、原則としてその期間が満了するまでは退職できません。
・ただし、「やむを得ない事由」があれば、契約期間の途中であっても契約を解除(退職)することが可能です。
・もし、退職の意思表示が「やむを得ない事由」に基づかないと会社が判断した場合、法的にその退職を拒否することも不可能ではありません。しかし、会社として、本当に「やむを得ない事由」があるのかどうかを争ってまで退職を認めないことに、会社側のメリットがあるかどうかを慎重に検討する必要があります。
・結局のところ、期間の定めがある雇用契約であっても、従業員から退職の意思表示があれば、会社はそれを受け入れざるを得ないことが多いでしょう。労働契約法では会社からの解雇には厳しい制限がありますが、従業員側からの期間途中での退職については、特段の制限は設けられていません。
退職代行業者からの連絡は、突然で驚くかもしれませんが、慌てずに適切に対応することが非常に重要です。
連絡が来た際、「会社としてこれだけはやっておこう」という項目をまとめました。
以下の点に注意して対応しましょう。
・退職代行業者からの連絡があったとしても、それが本当に従業員本人の確実な意思なのかを確認することが、後々のトラブルを防ぐ上で極めて重要です。
・最も確実な確認方法は、従業員本人に自筆の「退職届」を会社に提出してもらうことです。
・もし従業員本人と全く連絡が取れない状況であれば、退職代行業者を通じて、本人に退職届を郵送してもらうように依頼することになります。
それでも本人が退職届の提出を拒むなど、他に本人の意思を確認する手段がない場合は、退職代行業者からの伝達内容をもって、本人の退職の意思に間違いないものとして、退職を認めるしかありません。
・退職代行業者からの伝達が文書やメールで行われた場合は、その内容を必ず保存しておきましょう。もし電話や面談でやり取りした場合は、その内容を詳細に記録して保存しておくことが推奨されます。
退職代行業者と本人との間の契約書の写しを入手できる場合も、保存しておくと良いでしょう。
・従業員が退職する際には、会社は従業員に属する金品(未払い賃金など)を返還する義務があります(労働基準法第23条)。
・未払いの給料や退職金がある場合、従業員本人(または退職代行業者を通じて)から請求があれば、原則として退職後7日以内に支払わなければなりません。
もし請求がなかったとしても、未払いの給料は通常の給料支払日に、退職金は就業規則などで定められた支払時期に支払う必要があります。
・残っている年次有給休暇については、従業員は退職日までに会社で働く義務のある日数について、有給休暇の請求をすることができます。
退職日を過ぎてから有給休暇を請求することはできません。
もし従業員本人(または退職代行業者を通じて)から有給休暇を使いたいという請求があれば、会社はこれを拒むことができません。ただし、もし従業員本人と全く連絡が取れないような場合は、有給休暇の請求がないと考え、原則として有給休暇を付与できないことになります。
従業員が退職する際には、税金関連の手続き、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の資格喪失手続き、雇用保険の資格喪失手続きなど、会社として様々な事務手続きを行う必要があります。これらの手続きを漏れなく、期日内に進めましょう。
万が一、退職を巡って従業員本人や退職代行業者との間でトラブルに発展してしまった場合に備えて、退職代行業者との全ての連絡(文書、メール、電話、面談など)の内容を詳細に記録し、保存しておくことが非常に大切です。
「退職代行サービス」からの突然の連絡は、会社にとってまさに予期せぬ出来事です。
初めて経験される場合は、驚きや戸惑い、不安を感じるのも無理はありません。
しかし、こうした状況でも大切なのは、まず冷静に受け止めることです。
退職代行業者からの連絡は、あくまで「従業員本人の退職意思を伝える手段のひとつ」であり、会社としてはその意思を正しく受け取り、適切に対応することが求められます。
その上で、退職届による意思確認、未払い賃金・退職金・年次有給休暇の精算、社会保険・税務の事務処理など、退職に伴う実務を正確に進めることが不可欠です。
対応を誤ると、後日トラブルに発展する可能性もあるため、慎重かつ丁寧な対応が求められます。
また、弁護士資格を持たない民間業者の場合、会社と直接交渉することは法律で禁止されており、会社側にも一定の対応判断が求められます。
相手が「どの立場で連絡してきているのか」を正確に理解しておくことも重要です。
とはいえ、こうした法的判断や対応方針の検討を、社内の判断だけで進めるのは簡単ではありません。
特に、退職理由にハラスメントや職場環境の問題が含まれている場合、企業の対応次第で企業イメージや法的リスクにも影響を及ぼすことがあります。
社労士法人アーチスでは、退職代行への対応はもちろん、退職に関する労務対応全般、社内規程の整備、リスク回避のための実務アドバイスまで、幅広くご支援しています。
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