今回のコラムはパワハラになるか否かの事例を5つ見ていきます。
とても大切なことなので、パワハラの定義を再度記載します。
詳しくは次回の記事をご覧ください。
この記事の目次
パワハラとは、職場において行われる
①優越的な関係(有利な立場)を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えている言動
③身体的・精神的な苦痛を与える、就業環境を悪化させる言動
を指します。
このすべてに該当すればパワハラになる可能性が高く、いずれかが該当しなければパワハラに当たらない可能性が高くなります。
①優越的な関係か | [◯該当 / ×非該当] |
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか | [◯該当 / ×非該当] |
③就業環境が害されるか | [◯該当 / ×非該当] |
頭の中で上記の項目と照らし合わせて見ていきましょう。
パート職員に業務上のミスを指摘された正社員が激高し、パート職員の胸ぐらをつかんで壁に数回叩きつけた。
ひとつひとつ見ていきます。
①優越的な関係か
→パート職員と正社員の関係性なので優越的な関係です。
したがって「該当する」となります。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
→パート職員の胸ぐらをつかんで壁にたたきつける行為は、注意でもなければ、指導でもありません。
前回に述べた、業務上明らかに必要性がない行動です。
したがって「該当する」となります。
③就業環境が害されるか
→壁に数回たたきつけられる被害は社会通念上から考えても異常な被害であり、就業環境が害されていると考えられます。
したがって「該当する」となります。
①優越的な関係か | ◯ 該当 |
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか | ◯ 該当 |
③就業環境が害されるか | ◯ 該当 |
上記のように3つとも該当するので、事例1は「パワハラに該当する」と言えます。
飲食店の店長が、遅刻を繰り返す正社員に今後遅刻をしないように注意した。
その際に「私は二度と遅刻をしません」という内容をA4用紙に1,000回書くことを指示した。
その間は水分補給も認めず、書き終わるまで退社させなかった。
こちらも確認していきます。
①優越的な関係か
→店長と正社員の関係性なので優越的な関係です。
したがって「該当する」となります。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
→遅刻を繰り返す社員に一定程度強く注意するのは、必要かつ相当な範囲であると考えられますが、この1000回書くことや給水させないは、前回に述べた、業務の目的を大きく逸脱した言動と考えられます。
したがって「該当する」となります。
③就業環境が害されるか
→ 身体的・精神的な苦痛を与えている。
したがって「該当する」となります。
①優越的な関係か | ◯ 該当 |
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか | ◯ 該当 |
③就業環境が害されるか | ◯ 該当 |
上記のように3つとも該当するので、事例2もまた、「パワハラに該当する」と言えます。
通常、調理することがメインの正社員がミスを繰り返したので、店長はしばらくその正社員に調理補助の業務を行うように命じた。
①優越的な関係か
→ 店長と正社員の関係性なので優越的な関係です。
したがって「該当する」となります。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
→ 精神的な攻撃ではく、社員の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減させることは業務上必要かつ相当な範囲内と考えられます。
したがって「非該当」です。
③就業環境が害されるか
→ 本来業務に就けず本人は苦痛を感じているかもしれないので、就業環境が害されていると考えることもある。
したがって一応「該当」とします。
①優越的な関係か | ◯ 該当 |
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか | × 非該当 |
③就業環境が害されるか | ◯ 該当 |
①と③は該当していても、②が非該当の場合、すべてが該当にはならないので、「パワハラに該当しない」と考えられます。
同期の正社員同士が業務のことで言い合いとなり、殴り合いの喧嘩になった。
一方があばら骨を骨折したため、骨折した方の正社員がパワハラだと主張している。
①優越的な関係か
→ 同期の同等である正社員同士の争いなので、優越性がなく該当しないと考えます。
したがって非該当です
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
→ 喧嘩なので、非該当です。
③就業環境が害されるか
→ 大けがを負ってしまっていますが、互いに傷つけているので非該当となります。
①優越的な関係か | × 非該当 |
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか | × 非該当 |
③就業環境が害されるか | × 非該当 |
すべてが非該当なので、事例4は「パワハラに該当しない」と考えられます。
ただしこの場合、パワハラではないものの、言い争いの原因や殴り合いの度合いなどを考えて、民事事件や服務規律違反での検討になり得ます。
店長が年間の売上目標を作成し、各正社員に当該目標を達成できるように具体的な指示をした。
ある正社員は目標達成に興味がなく、強制的な目標で不快に感じている。
そこで店長は、目標達成を実現するために、当該正社員と個人面談をする機会を設けた。
①優越的な関係か
→ 店長と正社員の関係性なので優越的な関係です。
したがって該当します。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
→ 店長が売上目標を作成し、具体的な指示、個人面談をすることは、明らかな遂行不可能な目標を課すのでなければ、業務上必要かつ相当な範囲内と考えられます。
したがって非該当です。
③就業環境が害されるか
→ 本人が強制的であると感じており、苦痛を感じているかもしれないので、就業環境が害されていると考えることもある。
したがって一応該当となります。
①優越的な関係か | ◯ 該当 |
②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか | × 非該当 |
③就業環境が害されるか | ◯ 該当 |
①、③は該当していても、②が非該当の場合、すべてが該当ではないので、事例5は「パワハラに該当しない」と考えられます。
実際の事例をご覧いただき、いかがでしたでしょうか?
事例1は業務に関係ない暴力。
事例2は注意をすることは良いのですが、相当な範囲を超えていますね。
事例3は本人が嫌だと思っていたとしても、能力に応じての業務指示なので業務の適正な範囲です。
事例4はパワハラ問題ではなく、民事や服務規律の問題。
事例5は少し高いレベルの業務を任せる、繁忙期にいつもより多い業務を与えることは相当な範囲内と考えられる事例です。
この事例から導き出せることは2つです。
1つは、いじわるや嫌がらせはNGですが、その方の成長のための言動、会社が当然のレベルで指示することはパワハラにあたらないこと。
もう1つは「本人が嫌がっているからパワハラになる」ではないこと。
特に上司である方は、これらを踏まえた上で、指示や指導について向き合っていただくことをおすすめいたします。
そしてもし問題が発生したら、しっかりこの3つの定義を確認してみてください。
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