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    【社労士監修】専門業務型裁量労働制の導入と運用のコツ

    労働時間

    現代の働き方にフィットする「専門業務型裁量労働制」とは

    現代社会において、知識集約型産業の発展や働き方の多様化が進む中で、従来の画一的な労働時間管理では対応しきれない業務が増えています。
    特に、高度な専門性を持ち、業務の進め方や時間配分を自らの裁量にゆだねた方が効率的かつ創造的な成果が期待できる仕事においては、柔軟な働き方が求められます。
     

    「専門業務型裁量労働制」

    そこで注目されるのが「専門業務型裁量労働制」です。
    専門業務型裁量労働制とは、特定の専門業務に従事する労働者について、実際の労働時間にかかわらず、労使協定で定めた時間を労働したものと「みなす」ことで、時間管理のあり方を柔軟にするものです。
    研究開発、システム設計、デザイナーといった職種で導入が進んでおり、労働者の自律性を高め、企業の生産性向上に寄与するメリットがあります。
    しかし、その導入と運用には、法律で定められた厳格な要件と細やかな配慮が必要です。
    適切な導入なくしては、制度自体が無効となるリスクも存在します。
     
    本コラムでは、専門業務型裁量労働制の基本的な仕組みから、対象となる業務、導入に必要な労使協定の内容、そして特に注意すべき導入・運用上のポイントや近年の法改正について、わかりやすく解説します。
     

    専門業務型裁量労働制、その意義と対象業務

    専門業務型裁量労働制は、「新商品などの研究開発、情報処理システムの設計、分析、デザイナーの業務などのように、専門性が非常に高く、その業務の遂行、労働時間の配分などを大幅に労働者の裁量にゆだねる場合」に適用される制度です。
    労使協定で定めた時間を労働時間とみなすことで、従業員は自分のペースで仕事を進められるようになります。
     

    なぜ「裁量」が重要なのか?

    この制度の核心は、業務の遂行方法や時間配分の決定を労働者自身の裁量に委ねることが、その業務の性質上、特に適している点にあります。
    管理者が細かく指示するよりも、専門性を持つ労働者自身が最適な方法を選択することで、より質の高い成果を生み出すことが期待されます。
     

    対象となる「専門業務」の具体例

    厚生労働省令(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項)で定められた業務が対象となります。
     
    主な例としては、以下のものが挙げられます。
     
    新商品または新技術の研究開発等の業務
    情報処理システムの分析または設計の業務
    (ただし、プログラマーは一般的に対象外とされています。「システムエンジニア(SE)の場合でも、プログラムの分析・設計業務に裁量性が認められるのはシステム全体を設計する技術者に限られ、裁量性が低いと判断された事例もあります)
    記事の取材または編集の業務
    デザイナーの業務
    プロデューサーまたはディレクターの業務
    その他、厚生労働大臣が指定する業務
    (コピーライター、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェアの創作、証券アナリスト、金融商品の開発、大学における教授研究、M&Aに関する調査・分析・助言、公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士など多岐にわたります。)
     

    【ポイント!】裁量判断の重要性

    重要なのは、その名称にとらわれず、個々の企業の具体的な業務内容に基づいて、その業務が実際に裁量労働に該当するかどうかを判断する必要があるという点です。
    労使協定で法定の要件に該当しない業務を定めても、それは無効となり、裁量労働制の適用は認められません。
     

    専門業務型裁量労働制導入の9つの要件と留意点

    専門業務型裁量労働制を導入するためには、労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必須です。
     
    また、この労使協定には、以下の9つの事項を定める必要があります。
    特に、令和5年3月30日の省令改正(令和6年4月1日施行)により、労働者の同意や健康確保措置に関する事項が追加・明確化されていますので注意が必要です。
     

    労使協定で定める9つの事項

    ①労働者に就かせる業務(対象業務)
     
    ②対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
     
    ③対象業務の遂行の手段および時間配分の決定に関し、使用者から労働者へ具体的な指示をしないこと。この旨を労使協定に明記することが導入要件です。
     
    ④労働者の健康および福祉を確保するための措置。これは、労働者の長時間労働による健康不安を抑制・緩和する趣旨で定められています。
    【労働時間状況の把握方法】
    タイムカードやPC使用時間の記録など、客観的な方法で把握することが義務付けられています。
     
    【具体的な措置内容】
    終業から始業までの継続した休息時間確保、深夜労働回数の制限、労働時間の上限設定、年次有給休暇の取得促進、医師による面接指導、代償休日または特別な休暇の付与、健康診断の実施、相談窓口の設置、配置転換、産業医等による助言・指導などの中から、適切に選択し実施する必要があります。
    特に、長時間労働の抑制策(例えば、終業から始業までのインターバル確保、労働時間の上限設定)から一つ以上、個別の健康状態改善策(例えば、医師による面接指導、健康診断)から一つ以上を実施することが望ましいとされています。
     
    ⑤労働者からの苦情処理に関する措置。苦情の申出窓口、処理の手順や方法を明確にすることが必要です。
     
    ⑥労働者本人の同意を得ること、および同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
     
    ⑦上記⑥の同意の撤回に関する手続き
    【同意の取得方法】
    書面だけでなく、電子メールや企業内のイントラネット等、電磁的記録での取得も可能です。
     
    【説明の徹底】
    使用者は、制度の概要、賃金・評価制度、同意しなかった場合の配置・処遇について明示し、説明した上で労働者の同意を得ることが適当とされています。説明が不十分で労働者の自由な意思に基づかない同意と認められない場合、みなし労働時間の効果は生じない可能性があります。
     
    【過半数代表者の選出】
    労使協定の締結にあたる労働者側の代表者(過半数代表者)の選出は、民主的な手続きがとられていることが求められます。投票しなかった選挙権者が過半数代表となる個人の選出を支持していると明確に認められない場合、裁量労働制の適用が否定された判例もあります(学校法人松山大学事件)。
     
    ※同意・撤回の様式(説明書・同意書・撤回届)を標準化し、説明実施の署名または電子記録を残す運用にしておくと、後日の紛争予防に有効です。
     
    ⑧労使協定の有効期間
     
    ⑨上記④(健康・福祉措置)、⑤(苦情処理)、⑥⑦(同意・撤回)に関する労働者ごとの記録を、労使協定の有効期間中および期間満了後5年間(当分の間は3年間)保存すること。
    労使協定の届出は、所轄労働基準監督署長に行う必要があります。事業場外労働の場合とは異なり、協定で定める時間が法定労働時間以下である場合でも届出が必要です。
    また、複数の事業場を有する企業では、電子申請の場合に限り、本社が各事業場の協定を一括して届け出ることが認められています。届出にあたっては、押印や署名は不要ですが、労使双方の合意が明確となる方法で締結する必要があります。
     

    専門業務型裁量労働制 導入・運用上の注意点とトラブル回避策

    専門業務型裁量労働制は、適切に導入・運用されなければ、労働時間のみなし効果が得られず、未払い賃金や長時間労働に関する法的リスクを抱えることになります。
     

    労働時間管理は不要?いいえ、健康確保のため必須です

    「裁量労働制だから労働時間を把握しなくてよい」という誤解がありますが、これは間違いです。使用者は、賃金計算のための労働時間把握義務は免除されますが、労働者の健康確保を図るために労働時間管理を行う義務があります。 具体的には、タイムカードの打刻や、PCのログ記録など、客観的な方法で労働者の労働時間を把握することが推奨されています。労働者側も、就業規則に定めがあればタイムカード打刻等の勤務管理上の義務を果たす必要があります。
     

    36協定と割増賃金の関係

    【36協定の要否】
    みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、36協定の締結・届出が必要です。法定労働時間以下であれば不要です。
     
    【深夜・休日割増賃金】
    深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)や休日労働には、みなし規定は適用されません。
    そのため、深夜や休日に労働が行われた場合には、別途、深夜割増賃金や休日割増賃金を支払う義務が生じます。
     
    ※運用上の工夫として、就業規則等で深夜業務や休日業務を原則禁止とし、やむを得ず行う場合は使用者の許可を得た上で労働時間を報告させるなど、労働時間を把握する仕組みを設けることが重要です。
     

    休憩・休日の付与

    裁量労働制であっても、法定の休憩時間(労働基準法第34条)や休日(労働基準法第35条)は、原則通り付与する義務があります。労働時間の配分は労働者の裁量に委ねられますが、休憩や休日の取得は使用者の定めに従う必要があります。
     

    不適正運用への指導強化と企業名公表のリスク

    近年、厚生労働省は裁量労働制の不適正な運用に対する監督指導を強化しています。
    特に、対象業務以外の業務に裁量労働制を適用したり、長時間労働が認められたりした場合には、都道府県労働局長による経営トップへの指導や企業名公表が行われるリスクがあります。
    制度の適正な運用は、企業のコンプライアンス上、極めて重要です。
     

    求人時の明示義務

    裁量労働制の求人を行う際は、職業安定法に基づき、裁量労働制であること、および「○時間勤務したものとみなす」といった具体的な就業時間を求人票に明示する必要があります。
     

    まとめ:専門業務型裁量労働制の成功には「専門家との連携」が鍵

    専門業務型裁量労働制は、特定の専門職種における従業員の自律性を尊重し、生産性を高めるための強力なツールです。
    しかしその導入と運用は、多岐にわたる法的な要件と実務上の複雑な対応を伴います。
     
    特に、令和6年4月1日の改正施行により、専門業務型裁量労働制に関する労使協定の要件が強化されています。
    すでに施行から1年が経過しており、改正内容に対応していない協定や運用は、現在では法令違反となるおそれがあります。
     
    •対象業務の厳密な判断
    •労使協定の9つの必須事項の網羅と適切な記載
    •健康確保措置や苦情処理措置の具体的な策定と実施
    •労働者の自由な意思に基づく同意の取得
    •実態に即した労働時間管理(健康管理目的)と適切な割増賃金計算
     
    これらの要点を踏まえ、制度が形骸化したり、法的なトラブルに発展したりするのを避けるためには、専門的な知識が不可欠です。
     
    ここを誤ると、未払い賃金の遡及精算、付加金・遅延損害金、是正勧告・企業名公表、人材流出といった「経営インパクトの大きい事態」に直結します。
    裁量労働制は「導入さえすれば自由になる制度」ではなく、毎月の記録と運用の積み重ねがなければ成立しません。
    自己流での導入・改定は極めて危険です。
     

    当社にご相談いただくメリット


    ・対象業務の適合判定を、職務記述と実態ヒアリングで丁寧に文書化
    ・監督署で差戻されやすい表現を避けた協定書・就業規則の作成支援
    ・インターバルや面接指導トリガー、記録保存など“回る運用”の設計
    ・説明記録・同意・撤回の電磁的管理で、後日の確認・証跡をシンプルに
    ・みなし時間の妥当性をデータで検証し、36協定との整合を確保
    ・年次の簡易監査とレクチャーで、運用の質を継続的にアップデート

     
    裁量労働制は“設計の一文字・運用の一手順”の違いで適法性が左右されることがあります。
     
    専門家が伴走することで、安心して効率的に導入・運用していただけます。
    社労士法人アーチスは複数業種の導入・是正支援の経験をもとに、設計から届出、運用定着、監督対応までサポートします。
    より詳しい情報を知りたい場合は、ぜひ当社にご相談ください。
    最短のリードタイムで、安全かつ実効性の高い制度運用をお約束します。

     
     
     



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